六位一体による地域保健医療の均てん化
~救えるはずの命を救うために~

SMAN

「医療事故:真実説明・謝罪普及プロジェクト」成果物の書庫です。

【プレスリリースから】

米国「医療事故:真実説明・謝罪マニュアル」の翻訳とウエブ公開について
「本当のことを話して、謝りましょう」――“医療事故謝罪運動”を普及
(2006 年11月16日)

 東京大学 医療政策人材養成講座 有志 「真実説明・謝罪普及プロジェクト」 東京大学 医療政策人材養成講座 受講生有志の「真実説明・謝罪普及プロジェクト」が、「 医療事故:真実説明・謝罪マニュアル~本当のことを話して、謝りましょう」を翻訳し、11 月16 日、ウエブサイトで公開を始めました。このマニュアルは、実際に16のハーバード大学関連教育病院で使用されているもので、医療事故が起きた場合は、その内容を患者さんやご家族に説明をして、きっちりと謝罪をするということが中核になっています。米国ではこうした「真実説明・謝罪」が急速に広まりつつあり、訴訟が減るという効果も出はじめています。当プロジェクトでは本マニュアルが広く読まれることで、日本でもこうした方針が普及することを願っています。

●翻訳者:東京大学 医療政策人材養成講座 有志「真実説明・謝罪普及プロジェクト」
●原典:When Things Go Wrong Responding To Adverse Event A Consensus Statement of the Harvard Hospitals
著作権者:Massachusetts Coalition for the Prevention of Medical Errors (http://www.macoalition.org/documents/respondingToAdverseEvents.pdf)

●主な内容:
・Do the Right Thing(なすべき正しいことをする)が原則。( 隠さない、逃げない、ごまかさない)
・医療事故が起こったら、「 こんなことが起こって残念です」。
・医療過誤ならば(と分かったら)、「 申し訳ありません。お詫びいたします」。
・まず、はっきりと分かっていることを説明する。今後の見通しを説明し、何かが明らかになったらすぐにそれを説明することを約束する。
・医療事故に遭った患者さんとご家族は精神的に大きく傷ついているので、共感と誠意をもって、患者さんやご家族とコミュニケーションする。
・リスクマネージメント部門が関与して根本原因分析(RTC)を実施して再発防止。 ・医療事故を謝ったら訴訟に不利になるというのは神話。結果として、医療訴訟が減少し、医療紛争処理費用も削減される。

●本書の特徴
・ハーバード大学の関連教育病院(16 病院)の安全管理担当者など(患者代表も参加)が集まって作成したコンセンサス・リポート(合意文書)。 各現場の実践に使われる。また、医療界におけるハーバード大学の影響は大きい。
・医療事故研究の第一人者であるルシアン・リープ氏(ハーバード大学公衆衛生大学院教授)がリードしている。
・「2005 年3月に全施設に配布。各施設が検討委員会を作るなどして、この合意文書に基づいて院内規則の改定に着手。すでに、かなり進んだ対応をする施設も出てきた。来春までには、合意文書に基づいた院内規則の策定が一巡するだろうと期待している」( ルシアン・リープ氏)
・可能な限りの根拠を示し、具体的な推奨事項を示している。
・患者さんと対話する際のセリフ例や、医療従事者教育のカリキュラムなども示している。

●「真実説明・謝罪方針」の普及
・この「医療事故:真実説明・謝罪マニュアル」の趣旨に賛同する病院経営者・幹部、医療界有力者などから、「 本書の趣旨に賛同します」という方を募り、お名前を当ウエブサイトに掲載していきます。
 本書を読んだ上で、本書の内容に共感する方は、「 医療事故:真実説明・謝罪マニュアルの趣旨に賛同します」と、お名前、肩書き、所属施設などの名前を添えたうえで、ご連絡をください。ウエブサイトに掲示させていただきます。なお、ここでの賛同表明には、本書の方針を実践している必要はありません。(別紙、参照)

●日本の状況
・まだ、「 医療事故が起こったときには、余計なことは絶対に話すな」と教えている医療現場がたくさん存在します。医療事故が明らかになるのは氷山の一角と考えられます。隠蔽が行われることも少なくないと思われます。米国のような「医療過誤訴訟危機」は起こっていませんが、医療事故は多数存在し、医療への国民の信頼が揺らいでいます。「 真実説明・謝罪」の普及によって医療現場の“文化”が変わらなければ、真の再発防止などにもつながらないと考えられます。また、医療現場において「真実説明・謝罪」が実践できる環境作りの整備も求められるといえるでしょう。その際、米国では、「『 医療事故を誤ったら訴訟で不利になる』ということが神話に過ぎなかった」と認識されていることを知るのは、大きなインパクトになる可能性があります。

●米国における「( 医療事故に関する)真実説明・謝罪運動」の状況
〔背景〕
・米国では、「 医療過誤訴訟危機」が発生。損害賠償金額が高騰。医師賠償責任保険も高騰。ペンシルバニア州、イリノイ州などから、医師が脱出・流出するなどし、大きな社会問題になっている。
・損害賠償額に上限をつける州が出てきているが、根本解決ではない。 〔真実説明・謝罪について〕 ・1987 年、ケンタッキー州レキシントン市のVA(退役軍人)病院で、真実説明方針の実践が始まる。
・有害事象の患者への告知の義務化を行う州が出てきた。ネバダ州、フロリダ州、ペンシルバニア州(2004年)、 ニュージャージー州(2005年)、 バーモント州(2006年)・・・。
・29州が、謝罪を事故責任の証拠としないことを州法などに規定している。 (マサチューセッツ州1986年、テキサス1999年、カリフォルニア州2000年、その他の州は2004 年辺りに制定)
・米国では、多くの州で、有害事象(死亡例・重篤障害例)の報告が義務付けられているが、その報告書が法廷証拠には使用されないとの制限がある(ただし、訴訟を妨げるものではない)。
・真実説明と謝罪を含む連邦政府の法案をヒラリー・クリントン上院議員が提出。National Medical Error Disclosure and Compensation Act。内容:患者安全医療品質局の設置、全米患者安全(医療事故)データベースの設置、真実説明、有害事象補償プログラム・・・ ・米国では、政府が運営する退役軍人病院チェーンが、真実説明・謝罪ポリシーを採用している。
・民間ではカイザー・パーマネンテ(カリフォルニア州を中心とする大規模病院・保健システムチェーン)などが、先進的とされている。 ・米国では、通常は刑事が介入しない、医療職が医療事故対応について教育されている、病院に医療事故対応専門チームがいる、示談金などについても経費と考えられている、医療事故の報告義務が厳しい――など、「真実説明・謝罪」が標準的な対応として実践できる環境が整いつつあると考えられる。
・「真実説明・謝罪」が人道的であること、医療事故紛争処理費用を下げること、また、医療事故に遭遇した医療従事者の支援にもなること、などが広く知られるようになってきたため、「真実説明・謝罪」の普及に弾みがつこうとしている段階と考えられる。
・ミシガン・ヘルス・システムの実績。「真実説明・謝罪」の実践の結果(参考資料参照)
損害賠償費用 300万ドル(2001年8月)⇒100万ドル(2005年8月)
紛争解決所要期間 20.7カ月⇒9.5カ月
紛争訴訟件数 262件⇒114件

ルシアン・リープ氏からのメッセージ

ルシアン・リープ氏 日本語翻訳版への特別メッセージ
A SPECIAL MESSAGE FROM LUCIAN LEAPE CONCERNING THE PUBLICATION OF "WHEN THINGS GO WRONG" IN JAPANESE 

 患者さんがわれわれの行った医療行為で害を受けたとき、「なすべき正しいこと」は、謝罪をして償いをしようとすることです。しかし、とりわけ、その傷害の原因となった過誤を犯した人にとっては、その「正しいこと」をなすことが難しいかも知れません。現代医療という複雑な世界では、医原性(医師の医療行為が原因となった)傷害の危険性は至るところに存在します。だからこそ、不幸なできごとのあとに、正直で思いやりのあるコミュニケーションを実施するという課題に、国境はありません。

 この、ハーバード大学関連教育病院による合意文書の目的は、こうした難問に直面する医師や看護師たちに、さらには、彼らに支援を提供すべき医療機関や病院の同僚たちに、手本と援助を与えることです。

 このたび、この文書が日本のみなさまに読んでいただけるようになったことをうれしく思います。そして、不慮の医療事故で傷害を受けた患者さんに対して、思慮深く思いやりのある対応をしようと試みる際に、この文書が役立つことを願います。

ルシアン・L・リープ
  When a patient is harmed by our care, the right thing to do is to apologize and try to make amends. But doing the "right thing" can be difficult, particularly for the person who has made an error that caused the injury. In the complex world of modern medical care, the risk of iatrogenic injury is universal. So, too, the problems of providing honest and compassionate communication following a mishap know no national boundaries.

  The purpose of this consensus statement from the Harvard hospitals is to give guidance and assistance to doctors and nurses who face this challenge, and to the institutions and their colleagues who must provide support.

  We are pleased that this document will now be accessible to our Japanese friends and hope they will find it useful as they seek to provide thoughtful and compassionate responses to their patients who have been inadvertently injured.

Lucian L. Leape

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